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笑顔の実り。 vol.79(2020年9月号)
さんだ しげあきさん|67歳
羽曳野市西浦 三田 茂明さん

人との繋がりの大切さを改めて感じて

農業を始めたきっかについてお聞かせください

父は農業一筋の専業農家でした。小学生の頃は学校から帰ってくると、父からのメモが毎日テーブルに置かれていて、そのメモには私がやらなければいけない農作業の内容がビッシリと書かれていました。友達は自由に遊びに行っているのに、自分は父から与えられたノルマを終らせないと遊びにいけない。なんで自分だけという毎日を過ごしながら、将来農業はやりたくないと子供ながらに考えていました。  農業を本格的に始めたのは父が亡くなった10年前からで、最初は父が守ってきた農地を自分の代で荒らすことなく守っていかなければと、最低限の事だけするつもりでした。しかし本格的に農業を始めてみて、自分自身で試行錯誤を繰り返していくうちに、農作物を育てる楽しみが分かるようになりました。

農業をしていて嬉しかったことはありますか?

5、6年前に近所の方からイチゴの苗を頂く機会がありました。これまでイチゴを育てたことがなかったため、分からないなりに栽培してみたのですが、初めて自分で実らせたイチゴを食べてみると、とても美味しいと感じました。それ以降「自分でもこんなに美味しいものが作れるのか!」と気づき、農業の魅力に引き込まれていきました。  毎朝、農作業をしていると、小学校に登校中の孫が「いってきま~す!!」と大きな声で挨拶してくれます。そんな孫は、私が育てた野菜を「これじいちゃんが作った野菜やで!!」と言うと、嬉しそうに食べてくれています。  父から栽培を教えてもらった農作物は米・水菜・茄子だけで、それ以外の農産物栽培の知識や経験もない私が、今では多品種の野菜を作るようになったきっかけは、自分が作った農作物を美味しい美味しいと食べてくれる人の顔を近くで見られることが喜びだからです。そんな孫の笑顔が見られるだけで、苦労したことも忘れられます。今は子供や孫たちにより安全でおいしい旬の農産物を食べさせてやりたいという思いが強くなり、自己流でやってきた農業を一から勉強し直そうと、今年からJAの農業塾に通い始め、現在勉強中です。

農業に対する思いをお聞かせください

現在、農業委員として農地パトロールを行っていると休耕地が年々増えていることに気づきます。私が子供の頃、西浦地区はとてものどかな田園風景が広がっていましたが、昭和50年代に外環状線が開通してから、交通量が増え、商業施設が建ち並び都市化が進みました。生活や暮らしは便利になりましたが、当然農地を手放す方もいるわけで、地域農業の未来を考えると都市化はこれぐらいで止まってくれればと思っています。  私が農作業をしている農地の横にある倉庫には、たびたび訪問客が訪れます。それは近所の方や地元の同級生などで、日陰でのんびりと畑を見ながら農業の事や地域の事や昔話に花を咲かせ、地域の方々の憩いの場となると同時に私の癒しの場にもなっています。会社勤めの時には分からなかった、人との繋がりの大切さを改めて感じています。

これからの目標を教えてください

まだまだ、農業について学んでいる最中の私ですが、今思えば、子供の頃に嫌々していた農作業の経験が今に活きているのだと考えています。これまで私がしてきたように、子供たちには先祖代々受け継いできた農地を今後も守っていって欲しいという思いはありますが、強制することはできません。でも、もし私と同じような思いになってくれた時に農業のやり方を全く知らなかったら、困るのではないかと思います。子供たちの世代が農業をするのかどうか分かりませんが、農業の知識や技術の継承を行っていくことで、地域農業を守ることに繋がればと思います。そして子供や孫の世代に数少ない西浦の田園風景を残していければ良いですね。
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