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笑顔の実り。 vol.78(2020年8月号)
たにだ かずつぐさん|72歳
河内長野市唐久谷 谷田 一次さん

唐久谷の自然で作るこだわり椎茸

農業を始めたきっかけについてお聞かせください

20年ぐらい前に父親に代わり、原木椎茸栽培を引き継ぎました。機械製造業の会社に勤めていたため、農業をしていたのは主に休日で、本格的に農業を始めたのは定年退職してからです。ずっと農業は大変だし良いイメージは持っていませんでしたが、定年を境に人生の目標の変化を自覚しました。定年前は、”家族を支える”ことが目標でしたが、定年後は”家族とともに生きる”ことへと変わっていきました。今は息子やその友人達に私の農地の一部を任せて、栽培指導をしながら一緒に米作りを行っています。秋にはうちに大勢が集まって収穫祭を行い、みんなで作ったお米を食べます。息子や孫たちも自分たちで作ったお米はいつもよりおいしいと喜んでくれています。

栽培について教えてください

椎茸栽培には、菌床栽培と原木栽培の2種類があり、菌床椎茸は、おがくずに米や麦の糖をまぜた人工的な培地の菌床で栽培する方法で、安定して3~6か月のサイクルで収穫することが出来ます。一般的なスーパーに並んでいる椎茸は、ほとんどこの菌床椎茸になります。一方、原木栽培は天然の木に植菌し、椎茸が発生するまで1年半から2年ぐらい寝かせる栽培方法で、手間と時間がかかります。そのぶん味や香りの強さ、肉質のしっかりした椎茸になります。 原木椎茸栽培は水温が20度未満でないと発芽しないので、夏に出荷しようと思うと大変です。唐久谷は夏でも市街地と比べて気温が2~3度は低く、谷に入ると冷房の効いた部屋のようです。その気候を活かして、出荷のピークを夏から秋として原木椎茸栽培を行っています。

農業についてのこだわりはありますか?

私が農業を始めてから、父の時代から変えたことは、感覚でやる農業ではなく、データを取って管理していく農業です。合理性や効率を検討し改善を行い、原価を考えて栽培します。ただし栽培方法自体は父の時代から受け継いだもので、全く変えることはしていないですね。 「少ない労力で作れるだけ作って、作ったものは全部売りきる」というのがモットーです。現在使用している原木はすべて自分の山から切り出していて、水も原木も全部唐久谷の自然から作っていることが一番のこだわりです。

農業をしていて嬉しかったこと・大変だったことは?

3,4年前から市外の料亭より「谷田さんの椎茸を」と予約をいただくようになりました。自分の椎茸を選んでくれて「この人の椎茸じゃなきゃ!」と言ってもらえることは嬉しくて励みになり、もっと良いものを作りたくなります。大変だったのは、原木伐採時に生じる原木(クヌギ、楢)以外の雑木を活用して抽出した木酢液の販売です。100本以上を販売できたので良かったのですが、販売許可を申請するのに、JA、保健所、市役所、大阪府を経て最終的に林野庁に承認をもらう必要があり、かなり大変でした。

これからの目標を教えてください。

目標は原価率の改善で、今後も工夫と改善を続けていきたいと思っています。以前、気候を活かしてスナップエンドウを一か月ずらして作ってみたところ、すぐに完売したことがありました。時期をずらすと出回っている農産物の数も少ないので売れるようになることを実感しました。もっと気候の特性を活用し、栽培時期をずらすことに挑戦してみたいと思います。
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