食と農のこと食と農のこと

笑顔の実り。 vol.71(2019年11月号 )
いわね やすせいさん|60歳
富田林市 五軒家 岩根 保誠さん

田んぼのおっちゃんと呼ばれて

土に触れると心が落ち着く

実家は代々農業と造園を営んでおり、岩根さんは5代目だ。畑仕事を手伝っていた子どもの頃、機械が無く手作業で大変だったが、自然と向き合い、土や植物に触れていると心が落ち着く。「自分は農家に向いている」と感じ、大学卒業後、父親が足の手術をしたのをキッカケに就農した。育てているのは、主に植木と米だ。

小学生が米作り

岩根さんは地元の小学生が米作りを体験する「教育田」に協力している。20年ほど前、当時息子が通っていた小学校の校長先生から「児童に収穫体験をさせたい」と相談された事がきっかけだった。  「蛇に噛まれたり、ケガをするような事が起きれば、親御さんが心配するので中止にしようと思っていました。ですが、今まで無事故で続けられています」  児童が体験するのは田植えと稲刈りだ。それ以外の田の管理は全て、岩根さんが担っている。するどい石や刃物があると危ないので、安全管理は気が抜けない。

田植えで泥りんピック

田植えの日には毎年、児童が喜ぶイベントを用意している。苗の植え方を教え、30分ほどで田植えを終わらせると、田んぼの中で徒競走を行う「泥りんピック」を行う。ぬかるむ泥に足をすくわれながら、児童が田んぼを走り抜ける。汚れるのが嫌だと言う子もいれば、ヘッドスライディングする子もいる。先生が参加して、盛り上がった年もある。帰る頃になると、みんな全身ドロドロだ。  「1~2時間で技術を習得させることは出来ません。それよりも、5年生の良い思い出として、田植えの事を覚えていてくれたら嬉しい。全員ドロドロにして帰す!という気持ちでやっています」と笑う。

稲刈は重労働

稲刈りの日は、田植えよりも重労働だ。岩根さんは限られた時間で児童に稲を刈らせ、天日干しも行う。急がないと最後まで終わらない。「全部終わるまで帰らせないよ!と最初に伝えています。落ちている稲があると勿体ないので、全て手作業で拾わせています。稲刈りでは、お米の大切さや農家の苦労を伝えられたらと思っています」教育田に協力してから、道で児童に「田んぼのおっちゃん」と話しかけられることが増えた。声をかけられると「覚えていてくれたのか」と嬉しい気持ちになる。誰か一人でも農業に興味を持って、将来就農してくれればと願っている。

限られた条件で工夫を

教育田に協力しているが、岩根さんのメインの仕事は植木だ。公園の木を整備したり、新築物件に木を植えたり、様々な業務がある。他の仕事も請け負っているが、メインで担当しているのは一般家庭の庭作りだ。家主の好みに合わせて木を植え、石を置き、一から庭を作りあげる。美的センスが求められることも多い。  庭が完成した後も、植物は日々成長する。美しい状態に保つメンテナンスは欠かせない仕事だ。伸びすぎた枝を切り、形を整える。人に見られる機会が多いお盆や正月の前は「キレイにして欲しい」と注文がたてこみ、1年の中でも忙しい時期だ。  岩根さんが得意なのは、昔ながらの和風庭園。山などの自然を庭の背景として取り込む「借景」という技法を活かし、大きな庭を作りたいと思っている。しかし、庭の大きさは年々小さくなっており、取り壊して駐車場にされることもある。依頼されたサイズに合わせ、限られた中で工夫することを大切にしている。

教育田で地域連携

昔、田植えや稲刈りは、家族や親戚、近所の人が集まってするものだった。今は機械化が進み、一人でも作業が出来てしまう。岩根さんは教育田の取り組みに地域の人も参加してもらいたいと考えている。  「妻や息子夫婦、孫など私の家族や保護者、近所の農家さんが田植えと稲刈りの時に手伝ってくれます。多くの人に来てもらったほうが楽しい」  地域で連携し、教育田を続けていきたいと笑顔で話してくれた。
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