食と農のこと食と農のこと

笑顔の実り。 vol.68
ふじい のぶやすさん|70歳
羽曳野市 誉田 藤井 延康さん

珍種イチジクの
魅力伝えたい

人にも環境にも優しい農業

「会社員をしていた頃は、農業は定年後にやろうと思っていました」
藤井さんに転機が訪れたのは、46歳の時だ。転職した会社を数年で退職すると、次の仕事が見つからない。「家族を養わなければ」と、実家の助けを借りて農業を始めることにした。
ちょうどその頃、ベトナムの枯葉剤や複合汚染の報道を見る機会があり、薬や化学肥料が環境に与える影響を知った。農業をやるなら、環境に優しい方法で育てたい。農業塾を開く有機栽培農家の元へ、週末に8ケ月間通い、有機栽培のイロハを教わった。
最初の数年は実家の農業を手伝い、昔ながらの栽培方法を学んだ。大阪エコ農産物の取り組みが始まると、すぐに認証を取得し、徐々に有機栽培に切り替えた。農業塾で学んだ知識を活かし、人にも環境にも優しい農業を心掛けている。
「化学物質過敏症の方から、あなたの作った農産物なら食べられると言われたとき、有機栽培をしていて良かったなと思いました。私は少しアレルギーがあるので、食の安全にとても関心があります」
現在は、さらに踏み込んで有機JASの取得を目指している。農業に使う資材や肥料の見直し、日々の栽培の報告書など、やる事は多い。それでも「多くの人にとって安全なものを作りたい」という思いから、認定に向けた準備を進めている。
「最近は廃プラスチックの問題が取り上げられますが、農業はビニールやプラスチックを多く使います。このままでは、いずれ私達に跳ね返ってくるはず。農業ではゴミを川に捨てないように気を付けています」

珍種イチジクを栽培

羽曳野市の誉田や碓井地区では、昔からイチジクの栽培が盛んだ。中でも、ほとんどの人が育てている品種が桝井ドーフィン。生産量が安定しているため、日本全国で栽培されている。藤井さんは桝井ドーフィンに加え、外国産の珍種イチジクを栽培している。作り始めたキッカケは、農業塾で「変わったイチジクの苗が売っている」と教えてもらったこと。試しにいくつか育ててみると、どの品種も個性的で面白い。次第に栽培数を増やし、今では85種類以上の品種を育てている。
「普通のイチジクと比べ、珍種イチジクは甘さや食感、見た目が全く違います。どれも魅力的ですが、最初は売り先が見つからず苦労しました」
変わった見た目のイチジクは、なかなか消費者に受け入れられない。栽培を始めた当初は、サービスであげるか、腐らせるしかなかった。流れを変えたのは、8年前、百貨店からかかってきた1本の電話だった。
「有機栽培の農産物を扱う企業が、ネットで私のことを紹介してくれたんです。それを見た百貨店が珍種イチジクを売りたいと連絡をくれました」
最初は2週間限定の販売だったが、百貨店の消費者に受け、翌年から本格的な出荷が始まった。販売する品種も、徐々に増やしていった。途中、納品が危ぶまれる年もあったが、固定客がついたおかげで、現在まで継続して販売している。

魅力を伝える紹介カード

個性的なイチジクの魅力を消費者に伝えるため、何か良い方法はないか?悩んでいたころ、多品種のトマトを栽培する農家と出会った。その人は、トマトの特徴を書いたカードをパックの中に入れていた。珍種イチジクも写真付きで特徴を紹介すれば、消費者に興味を持ってもらえるかもしれない。
「紹介文を作るためには、品種の特徴を知る必要があります。試食した時に食感や感動をメモしたり、食べて頂いた方の評価を文章にしました」
2016年には、大阪府に協力をお願いし、珍種イチジクの糖度と酸度を測ってもらい、データを基にグラフを作った。
紹介カードは「淡い甘みの中に、ほのかなミルクの風味がする」「ジューシーで先から蜜が滴る時もある」など、読むと思わず「食べたい!」と思うものばかり。データや資料を参考にしてカードを作り、販売に役立てている。
「安定して出荷できる桝井ドーフィンをメインに作りつつ、珍種イチジクの魅力を広めていきたい。珍種イチジクの栽培品種100種類を突破するのと、栽培する仲間を増やすのが今の目標です」

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